高須幸雄  理事長  挨拶


 「人間の安全保障」フォーラムは、すべての人の命・生活・尊厳を守る「人間の安全保障」は実践されてこそ意義があるとの考えを共有する研究者、学生が中心になって2011年春に設立されました。多くの賛同者、助成団体からのご支援を賜り、今年で16年目を迎えることができました。

 東日本大震災の被災者支援、子どもの未来館、学習支援から始まり、その後、難民関連の連携・教育、学びの旅、各種セミナー、人間の安全保障指標の作成、女性のIT就労支援、子どもの権利条約の普及などの活動を通じて、人間の安全保障の中核である「一人一人の尊厳」を守るための実践に努めてきました。このような人間中心の考え方は、「誰も取り残されない公正な社会」を目指すSDGsの理念に繋がっています。

 

 世界を見渡すと、安全保障の根源的意味が再び問われる世界になったといえます。第2次世界大戦後、また、冷戦の終結後の世界では、各国で民主化が進み、いわゆる「平和の配当」を享受することができました。武器を鍬や工具に替え、経済生産活動に専念し、人々の生活・福祉の向上に努める時代が続きました。

 しかし、近年は世界中でポピュリズムや権威主義が攻勢を強め、言論の自由や法の支配が制限されています。スエーデンのV-D研究所の報告書によれば、民主主義の国に住む世界の人口割合は、2005年の50%から2025年には26%と半減しています。

 安全保障の分野でも、ロシアの武力によるウクライナ侵攻やハイブリッド攻撃、イスラエル軍のガザ侵攻、米国トランプ大統領による一方的な関税政策に続くベネズエラ、イランに対する武力攻撃により、残念ながら、国連憲章の「紛争は平和的に解決する」原則は無視され、今や、ルールに基づく国際秩序は崩壊寸前です。「正義が力なり」の原則が「力が正義なり」、「大国の力による支配」に置き換えられつつあるといえます。

 この情勢を背景に、日本も含め世界の主要国は、軍需産業の強化、軍事費増強に努めており(2025年には、世界のODA総額が減額になる一方で、軍事費総額は7%増)、今後ともこの傾向は加速化されると見込まれています。いずれの国も財政状況は容易ではないので、社会保障などの民生費、開発協力にしわ寄せが向かうのは避けられないでしょう。

 

 ここで、人間の安全保障の持つ視点の重要性を再確認する意義が大きいと思います。安全保障の目指す目標が、国家とともにそこに住む人々の命・生活・尊厳を守ることにあるとすれば、国民の豊かな生活や途上国への開発協力を犠牲にして、軍事予算を増やし防衛力を強化することで、真の安全保障は達成されるのでしょうか。国の安全保障と人間の安全保障の双方が達成されるよう両者にバランスをとることが欠かせないと思います。そのためには、政府、国会議員だけではなくメディアや有識者、NPO法人など市民社会の役割が大きいと思います。

 

 「人間の安全保障」フォーラムとしては、さらに人間の安全保障への理解・支持を増やし、「誰も取り残されない公正な社会」を日本で実現するための教育・研究・連携・交流活動を推進する予定です。

 人間の安全保障指標については、都道府県別の優先課題を可視化する指標(『SDGsと日本』で発表)、市町村別の課題を可視化する宮城県内指標(『SDGsと地域社会』で発表)、愛知県内指標(県内の54市町村別)を完成してきました。今後は、啓発活動を通じて、地域社会でのSDGsの理念の実現に向けた取り組みの強化を目指し、国際機関や研究機関と連携して国際的な発信に努めます。

 また、東日本大震災で大きな被害を受けた気仙沼市で、女性のIT就労支援、子どもの居場所づくり、子どもの権利条約の啓発活動を行う「誰も取り残されない気仙沼」プロジェクトを継続・発展していきます。

 子どもの権利条約は「子ども基本法」の背骨になる重要原則ですので、日本中のすべての子どもと大人の方に学んでほしいと思います。その一助として、学習のための『活用マニュアル』を作成しましたので、関心のある方は是非このサイトでご覧ください。(コピーご希望の方は、ご連絡をお待ちしております。)

 私どもの活動に賛同してくださる皆様のご協力に心から感謝し、引き続き人間の尊厳を守るための活動への支援をよろしくお願い申し上げます。

 

理事長 高須幸雄 

2026年5月

理事長略歴

現在、国際連合事務総長特別顧問(人間の安全保障担当)、日本ユニセフ協会会長、中部大学フェロー前国連事務次長(行政監理局長)、元国際連合日本政府常駐代表(国連大使)