高須幸雄  理事長  挨拶


  「人間の安全保障」フォーラム(HSF)は、すべての人の命・生活・尊厳を守る「人間の安全保障」は実践されてこそ意義があるとの考えを共有する研究者、学生が中心になって2011年東日本大震災の年に設立され、今年で15年目を迎えます。

 この間、被災者支援、子どもの未来館、学習支援、難民関連の連携・教育、学びの旅、各種セミナー、人間の安全保障指標、女性の就労支援、子どもの権利条約の普及などの活動を通じて、人間の安全保障の中核である「一人一人の尊厳」を守るための実践に努めてきました。このような人間中心の考え方は、「誰も取り残されない社会」を目指すSDGsの理念に繋がっています。

 

 世界を見れば、ロシアのウクライナ侵攻が3年を超え、市民への攻撃が続いています。イスラエル軍の攻撃によるガザ市民の死者数が2023年10月から1年半で5万人を超え、住民の生活は崩壊状況です。ミャンマーでは国軍が実権を握ってから4年余、民主派との武装闘争が続く中、大地震でさらに国民の生活は困窮しています。多くの国で武力行使の敷居を下げてしまったことが懸念されます。市民に対する攻撃は人道法違反であり、人間の安全保障に対する正面からの攻撃で許すことはできません。

 また、食料など生活必需品の世界的高騰により、開発途上国をはじめ全世界で、特に女性や子どもなど生活基盤の脆弱な人に深刻な影響を与え、2030年を目指すSDGsの目標の達成が大きく後退しています。

さらに、米国トランプ大統領によるアメリカフアースト政策により、貿易・経済、国際協力、人権・移民、安全保障など多分野において、ルールに基づく秩序を覆しかねない不確定性が増す世界になっています。

これらの危機に対して人間の安全保障の視点からの取り組みが重要です。国連憲章の定める「正義が力なり」が「力が正義なり」に置き換わらないよう、政府だけではなくメディアや人権団体、NGOなど市民社会の役割が大きいと思います。

 

 HSFとしては、引き続き人間の安全保障への理解・支持を増やし、「誰も取り残されない社会」を日本で実現するための教育・研究・連携・交流活動を引き続き推進する予定です。

 人間の安全保障指標については、都道府県別の優先課題を可視化する指標(『SDGsと日本』で発表)、市町村別の課題を可視化する宮城県内指標「SDGs宮城モデル」(『SDGsと地域社会』で発表)、愛知県内指標(県内の54市町村別)を完成してきました。今後は、啓発活動を通じて、地域社会でのSDGsの理念の実現に向けた取り組みの強化を目指し、国際機関や研究機関と連携して国際的な発信に努めます。また、東日本大震災で大きな被害を受けた気仙沼市で、女性のIT就労支援、子どもの居場所づくり、子どもの権利条約の啓発活動を行う「誰も取り残されない気仙沼」プロジェクトを継続します。

 子どもの権利条約は「子ども基本法」の背骨になる重要原則ですので、日本中のすべての子どもと大人の方に学んでほしいと思います。その一助として、学習のための『活用マニュアル』を作成しましたので、関心のある方は是非このサイトでご覧ください。

 HSFの活動に賛同してくださる皆様のご協力に心から感謝し、引き続き人間の尊厳を守るための活動への支援をよろしくお願い申し上げます。

 

理事長 高須幸雄 

2025年5月

理事長略歴

現在、国際連合事務総長特別顧問(人間の安全保障担当)、日本ユニセフ協会会長、中部大学フェロー前国連事務次長(行政監理局長)、元国際連合日本政府常駐代表(国連大使)